
実験で確認した物質は請求範囲から除外されていた
韓国大法院は2026年1月15日、2024Hu10658事件において、化学特許の請求項1および3~11について実施可能要件違反を認めた原審の判断を維持しました。対象は、バルサルタン、サクビトリル、ナトリウムイオンおよび水が非共有結合性相互作用によって会合する超分子複合体です。体外では一つの化学物質として振る舞い、体内では各成分に分かれる性質を有します。
請求項1は複数の固体形態を含む一方、結晶性の2.5水和物を除外していました。しかし実験例が示していたのは、構成比が1:1:3:2.5である、その除外された複合体でした。バルサルタンカルシウム塩とサクビトリルを結合したプロドラッグの記載もありましたが、残された請求範囲に属する複合体の実施例は明示されていませんでした。
水の量を変えれば再現できるとは限らない
韓国特許法42条3項1号が求めるのは、当業者が当時の技術水準に照らし、過度の実験や特殊な知識を補わずに発明を理解し、再現できる開示です。
明細書には二つの有効成分が複合体を形成する原理や、確認された2.5水和物の非共有結合性相互作用を十分に説明する技術内容がありませんでした。水和の程度によって結晶構造が変わる以上、水分子を増減・除去しても別の複合体が形成され、製造できるとは直ちにいえません。優先日当時は、複合体の形成可能性や構造の確認自体にも技術的困難がありました。
判決の射程を区別する
大法院は、特許法院2024年5月30日判決(2023Heo12695)に対する上告を棄却しました。請求項3~11で構成を限定・追加しても問題は解消されませんでしたが、この結論を請求項2にまで広げるべきではありません。
また、あらゆる化学発明の全形態について個別の実験例を要求した判決でもありません。本件では範囲内の実施例の欠如に、形成原理の説明不足と他の形態の予測困難性が重なっています。
補正・訂正後にも開示との対応を点検する
実務では、各実験の条件、得られた物質、請求項との対応を整理します。実証済みの事項、技術的に推認できる事項、未確認の事項を分けることが重要です。
出願中の補正や登録後の訂正で、発明の実施を説明していた物質を範囲から除く場合は特に注意が必要です。範囲を狭めても、残った発明を元の開示から再現できなければ実施可能要件の問題は残ります。
原図の表記と形状を保持しています。事件の事実関係と裁判所の判断は本文で説明しています。
